今回はインコタームズ 2020と2010の違いについて解説したいと思います。
10年ぶりの変更ということで業界の片隅で話題になっているインコタームズ2020ですがフォワーダー視点で解説をしていきます。
ぶっちゃけマイナーチェンジだけどね。。
インコタームズとは?
まずインコタームズとは何なのか?軽くおさらいしておきましょう。
インコタームズとは、貿易取引における費用負担や危険負担の範囲について取り決めた世界共通のルールです。「CIP」や「EXW」のように、アルファベット3文字で表されています。貿易取引を経験済の方であれば一度は必ず目にしているでしょう。
貿易取引では商品そのものの価格に加えて運賃や保険料、通関料、関税消費税など取引に関わる様々な費用が発生する上に、台風などの災害や事故など輸送中にも多くのリスクを抱えています。
そのため、その費用やリスクを誰がどの範囲まで負担するかということをインコタームズで明記しています。
貿易用語で最初の関門とは何でしょうか。私はインコタームズだと思います。CFRやEXWなど英単語3文字で表現されるインコタームズは何と11種類もあります。 でもご安心ください。ぶっちゃけフォワーダー歴8年の筆者も11種類の …
インコタームズの法的強制力は?
こう聞くと貿易において法的強制力を持つもののように思えますが、実は法律や国際協定ではないので強制力はありません。
しかし、輸出入者がお互いの責任範囲を明確にしてスムーズな取引をするためには非常に有効なルールであるため、国際貿易の慣習として世界中の取引で利用されています。
ですから必ずしもこのルールに則り貿易をする必要はありませんが、今後海外と取引をする上ではぜひ理解していただきたいと思います。
インコタームズ2010〜2020への変更点
さて2019年9月10日 ICC国際商業会議所から10年ぶりの改定となる「インコタームズ2020」が発表され、2020年1月1日より発効されました。
2010と2020の違いとしては以下の6つのポイントにまとめてみました。
1. 前書きや利用者の解説ノートの設置
2. 項目別に費用の危険負担の比較が容易になった
3. CIF及びCIPにおける保険の補償範囲の違い
4. FCA,DAP,DPU,DDUで売り主又は買主が自己の輸送手段を用いての運送手配
5. FCA規則に船積済みの付記のあるB/Lを含める。
6. DATを廃止しDPUを新設
6つにまとめてもなんだか難しく聞こえてしまいますが一つずつ簡単に要旨を押さえていきましょう。
1. 前書きや利用者の解説ノートの設置
インコタームズのノートに前書きや利用者の解説箇所を設置してより理解しやすいようになりました。
これはインコタームズの本を買ってないと分からんな。
2. 項目別に費用の危険負担の比較が容易になった
項目別に義務部分の対比をすることが簡単になりました。どのインコタームズを使用するとどの費用を負担することになるか、一目でわかるようになっています。
これも本での変更点ね。
1と2のどちらもインコタームズの書籍を購入しないと読めません。ですがフォワーダーでも本を目を通している人は少ないので、特に読まなくても支障はないと思います。
3. CIF及びCIPにおける保険の補償範囲の違い
CIFとCIPにおける保険の補償範囲の違いについては少し説明します。
インコタームズ2010では、売り主はロンドン国際保険業者協会のC約款又は類似の約款により規定されている最低限の補償範囲に準ずる補償を売り主負担で手配する義務が課されました。
約款とは簡単に言えば契約上の決め事で、つまりここでは保険契約を結ぶ場合の規則やルールですね。
そして2020ではCIFでは引き続きC約款が適用されますが、CIPではA約款に準拠する保険を付さなければならないというルールができました。
A約款は、すべてのリスクをカバーしています。なので買主にとって手厚い保険となり、売り主側の保険料は高くなります。
・CIF:C約款
・CIP:A約款(オールリスク)
つまりは商品そのものの価格も上がる可能性があります。そして保険料は日本側輸入時には課税標準(関税などをいくらにするかを決める際の価格)に組み込まれますので、消費税や関税も高くなることになります。
取引をされる場合にはそのことも念頭においてタームや保険付保の交渉をされるとよいでしょう。
4. FCA,DAP,DPU,DDUで売り主又は買主が自己の輸送手段を用いての運送手配
一部の規則において売り主又は買主が自己の運送手段を用いて運送の手配を行うことが認められました。フォワーダーの立場からしますとあまり関連のない規定となりますので詳細は割愛します。
5. FCA規則に船積済みの付記のあるB/Lを含める
FCA規則で、輸出国で貨物の船積をする前に船積証明が付記されたBLの発行を求めることができるようになりました。
銀行の信用状で取引をされる方には便利になったかと思います。この規則を制定することで、FOBほど認知度が上がらないFCAを広めようという意図が感じられます。
6. DATを廃止しDPUを新設
DAT廃止及びDPU新設に関連してここからは改定後のインコタームズについてお話します。
改定によってインコタームズは2種類11条件となりました。
・FAS – Free Alongside Ship
・FOB – Free On Board
・CFR – Cost and Freight
・CIF – Cost Insurance and Freight
・EXW – EX Works
・FCA – Free Carrier
・CPT – Carriage Paid To
・CIP – Carriage and Insurance Paid To
・DAP – Delivery At Place
・DPU – Delivery at Place Unloaded
・DDP – Delivery Duties Paid
と大きく二つに分けられます。
つまり飛行機やコンテナで輸送をするのにFOBやCIFなどのインコタームズを指定するのは誤りということです。ここでいう海上輸送とは、在来船などのことを指しています。
海上輸送にも色々あるからね。
インコタームズ Dグループの変更
変更点は2010ではあったDATが廃止され、DPUが新設されました。
DPUでは、売り主は、輸入国側の指定仕向け地までの輸送と荷卸し義務を負います。買主は輸入通関の部分で費用と危険を負担します。
今回はインコタームズ2020のDグループのDAP/DPU/DDPについて解説をしていきたいと思います。 インコタームズの2000/2010/2020と時代を経て、取引をより分かりやすく明確にする為の規則の変更がありました …
INVOICE上のインコタームズ
実際にINVOICEを作成されている方はINVOICE上のインコタームズの記載の仕方が気になるところかと思います。
正しくは、”CIF SHANGHAI INCOTERMS[R]2020”のように記載することとされています。しかしながら、実際にはこのように正しく記載されているインボイスは少ないのが現実です。
ほとんど見たことがないけどな。。
多くは「CIP SHANGHAI」「FCA OSAKA」のような形で書かれています。そして通関上にも特に問題はありません。この記載でも運賃負担がどちらかは十分にわかりますので通関に差し支えないのです。
今回のテーマは貿易におけるINVOICEとPACKING LISTの書き方について分かりやすく解説していきたいと思います。 まず、そもそもINVOICEとPACKING LISTとは何でしょうか? 貨物を輸出するときには …
輸出入者での合意が必要
前にも言いました通りインコタームズは推奨ルールでしかありませんので、このルールに則っていなかったとしても基本的な貿易取引条件さえ決めておけば貿易取引は完了できます。
もちろん事故や災害のリスクはいつも付きまといますが、万が一そのようなリスクに遭ったとしてもきちんとした契約書などがあれば当事者同士の話し合いで解決できるものです。インコタームズを絶対視しすぎず細かな部分は売買契約書などで定めておけば安心です。
また少し前にも言いましたように本来であれば、航空輸送などにFOBやCIFを使用するのは誤りです。でも現実のINVOICEでは数多く見られます。
でも問題ないんだけどね。
まず正しい情報を知っておくこと
最近でこそ、正しくFCAやCIPと記載されているものも見受けられるようになりましたが、正直言いまして災害や事故などのリスクがなければFOBやCIFでINVOICEが作られていても何ら問題なく通関も荷役も進むのです。
しかしながら、フォワーダーの立場に立ってみますと顧客から頂いたINVOICEが正しくFCAやCIPと記載されていますと「あ、このお客様は物流のことをちゃんと勉強されて理解されているな」と一目を置くポイントとなります。
プロの仕事ですね。
まず正しい情報を知ってることが前提で、そこからお客さんに合わせて崩すのはありかな。
今後永く貿易を続けられるのであれば、この機会にぜひとも正しいインコタームズを使用していただきたいです。
まとめ
インコタームズを一度に覚える必要はありません。改定された11種類のインコタームズをきちんと暗記し、スラスラと間違いなく説明できる人はフォワーダーの中でさえ少ないでしょう。
まずはご自分の貿易取引の中でよく使われている条件のものをしっかりと理解して覚えることが重要です。そして新たな貿易取引が始まった際などに新しいインコタームズを使用することになれば、またそのタームを自分で調べて理解し、覚えて正しく使用する。それで十分だと思います。
前回の改定が2010年、前々回が2000年であったことを考えますと次は2030年が予想されます。その際にも廃止や統合、新設があると考えられますので、テストのようにすべてを丸暗記しようと頑張るのではなく自分に必要なタームを一つ一つしっかりと理解しましょう。
そうすればいつ改定があっても慌てることなく対応できること間違いなしです。
貿易特化の転職サービス
もし現在 貿易の勉強をしている、貿易業界でお仕事をされているのであれば、是非 ご自身の市場価値を確認するために貿易特化の転職エージェントHPS Linkのコンサルタントご相談ください。ご登録・ご相談は無料です。